教育随想(授業づくり・集団づくり・児童理解)

実践、反省、さらに実践・・・

子供たちを相手にして、悩んだり迷ったりしている先生に読んでいただきたいと思っています。
迷うことが、悩むことが先生の良心であり、最も大切な能力ではないのでしょうか。
 わかったことよりわからないこと、できたことよりできなかったことに 心を向けていく先生は 素敵だと思います。

教育随想 76回 学級崩壊の子どもたちを修復 実践 最終回

学級崩壊に導く子どもたちは、内部エネルギーが大きく衝動的です。
方向性さえ自らつかむことができたら、自分の力でぐんぐんと前進します。


大人や先生に対する不信感、そこからくる不安と抵抗がみなぎっています。
「どうせ、ぼくはだめなんや」と口癖のように言いました。
A男は、算数が苦手でした。
4年生の時の計算ができていないところが多かったです。
教科書を持ってこないで横向いて座っているのは、彼の内面を物語っていました。


5月、算数の時間でした。
かけ算の筆算が苦手だったので、私は思い切って彼を含めた数人を指名して黒板で計算させました。
案の定、彼は、計算の途中で止まってしまいました。
私は、ここが一年間で最も大きな彼との勝負だと考えました。
実は、それるぞれの子どもには、その子と対決しなければなならないときが一回あります。
それを乗り越えて、彼らとの距離が縮まっていきます。
子どもが自分の可能性に目覚めるときです。


A男は独り残り黒板の前で下を向いていました。
私は彼のそばに歩み寄り、一つ一つ計算の仕方を教えました。
ていねいに教えました。
今までなら、彼は、嫌なことがあると自暴自棄になることがありましたが、その日は、ぐっと我慢してなんとか考えようとしていたのです。


私は、筆算の下の計算部分を消して、もう一度彼に自力でするように指示しました。彼は、どうにか、自分でこなしていました。
私は、新たな問題をだして計算させました。
「わからなくなったらそばに先生がいるからいつでも頼ったらいいんだよ。」
と伝えて、彼の計算を見守りました。
繰り上がりがうまく処理できないことがありましたが、少しずつできるようになってきました。
それでも私は、彼を席に戻らせません。
「今度はテストするよ。これができたら合格だ。」と言って、問題に挑戦させました。
彼は自力で解けました。


その間の時間は15分を使ったでしょうか、他の子どもたちは、黙ってA男を見守っていました。
きれることのない彼に驚いていました。
私は、他の子どもたちに見てもらうことがもう一つのねらいでした。
わからなかったら先生はどこまでも、場所を選ぶことなく付き合うという覚悟を知ってほしかったのです。


「すごいねえ、よくたえたね。粘り抜いたね。できないこと、苦手なことにあなたは正面からぶつかったのだよ。」と褒めました。
彼の目にはかすかな涙が出でいました。
私は、学級の子どもたちに言いました。
「今のA君の姿をどう思いますか。わからないことをわかるまで頑張りぬいたA君はすごいと思います。だれでも、最初はできないのです。できないことから逃げなことが素敵なことです。」
子どもたちは、A男に温かい眼差しを送っていました。
体育の時の走りの能力で彼と一歩近づき、そのつながりで彼の苦手な所で彼と勝負しました。


それ以来、少しずつ明るくなってきました。
まわりの彼を見る眼差しは好意的になってきました。
6月の末頃、彼の頭髪は黒髪になっていました。


時間をかけてゆっくり、じっくりと歩み寄っていきます。
担任の契約期間は一年間ですから、その時間を目いっぱい使って、それぞれの子どもたちを育てます。
彼の変容は他の2人を変えていきました。
さらに、学級の空気も穏やかなものにしていきました。

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