教育随想(授業づくり・集団づくり・児童理解)

実践、反省、さらに実践・・・

子供たちを相手にして、悩んだり迷ったりしている先生に読んでいただきたいと思っています。
迷うことが、悩むことが先生の良心であり、最も大切な能力ではないのでしょうか。
 わかったことよりわからないこと、できたことよりできなかったことに 心を向けていく先生は 素敵だと思います。

教育随想 294回 子どもが自分のマイナスを語るとき

「先生、ぼく万引きしてしまった。どうしたらいい?」と涙を流しながら話しかけてきた男の子。
卒業式の最後の練習が終わった日、卒業式の前日でした。
私は、彼の話を聞いてショックでした。
私が一年間かけて指導してきたことは何だったのだろうかと悔いました。まだ、若い時であったのでうろたえました。
先生としてのプライドがすぐには彼の訴えを認めようとはしませんでした。
明日には、全員の子どもを卒業させる時に、なぜ、このようなことが起きたのかと悩みました。


全員帰らせたあと、彼の話を聞いてみました。
二週間前に両親が離婚したとのことでした。心の動揺がつい万引きをしてしまったようでした。お金はもっていたが消しゴムをポケットに入れてしまい、そのまま家に帰ったそうです。
彼は、号泣しながら私に語りました。


私は、この一件をどうしたらよいか迷いました。
生徒指導の先生に報告して、一緒に指導するのが学校のルールでした。でも、私は迷いました。
今、そのようにしたとき、明日の卒業式を前にして、彼は、どのような気持ちで学校から巣立っていくのだろうかと考えるとたまらなくなりました。
さらに、離婚した保護者にも連絡しなければなりません。
その時の親の気持ちの痛みを考えると報告できなかったです。。


一時間ほど彼と話しました。
万引きするまでの心の動揺に耳を傾けていました。
私は、最近の彼の様子に気づいてあげられなかった自分が腹立たしかったのです。卒業式の準備に忙しかったことは事実ですが、子どもから目が離れていたことに自分を責めました。


私は決心しました。
彼が卒業式の前日、明日になれば学校から、そして、私から立ち去るのに、わざわざ私に相談に来た彼のことを考えました。
今、他の先生を呼び、学校として指導したとき、彼は明日、どのような気持ちで卒業式に臨むのかを思いやったとき、私自身、どうすべきか迷っていました。


しかし、彼が自分のマイナスをわざわざ伝えにきたという彼の正直さ、告白した時点で彼のしたことは相殺されているように思えました。
私は、彼に静かに話しました。
「つらかったね、私に話すまでずいぶん悩んだね。でも、あなたが話してくれてうれしかったなあ。黙ったままでも卒業できたのだから。ねえ、Aくん、あなたは自分のしたことを正直に告白した時に、あなたは、今までの自分から卒業したのだよ。これを成長したというんだよ。明日の卒業式、新しい自分に胸を張って出席しなさい。待っているからね。あなたが話したことは、二人だけの秘密にしよう。だれにも言わないことにします。だって、あなたの心のなかで、あなたがしたことを償っているから。・・・」


私は、彼を帰したあと、子どもから目が離れていたことを反省しました。
その夜はなかなか寝付かれなかったのを今でもはっきりと覚えています。
翌朝、彼は元気に「おはようございます」と私に挨拶をしにきました。
私は、彼に私が許してもらったような気がしました。

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