教育随想181回 「ごんぎつね」と私 物語文の教材研究とその指導6回
3場面 ごんの償いの始まり
1.教材の研究
再び、ごんは兵十の家を訪れる。心配になったのだろう。
「物置の後ろから見ていた」ごんは、兵十の家の敷地の中に入っている。
ごんが兵十に近づき始めている。兵十に対するごんの心の距離でもある。
しかし、ここでも、彼は大きな誤解を生むことになる。
「おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か」
動物の世界に住むごんの「ひとりぼっち」は、本当に独りである。
話す相手も助けてくれる者もいない。
死んでも、その死を弔ってくれるものもいない。
それが、動物の世界の孤独である。
しかし、人間世界に住む兵十は、家族を亡くし一人ぼっちではあるが、母の死をともに悲しんでくれた村人がいる
そして、以後も兵十を助けてくれるだろう。
話し合い相手もいる。一緒に食事する仲間もいる。
視点人物の条件を整理すると
①一人ぼっちであるということ。
②好奇心旺盛で物好きであるということ
③物事をいいかげんにしないで、きめ細かく見て考えるごんである。
ごんは、自分の境遇を兵十の境遇に重ねてしまったのである。
自分の孤独と、兵十の孤独は同じものだと思ってしまったのである。
自分のいたずらが原因で兵十をひとりぼっちにしてしまった後悔に悩むことになる。
なんとやさしいごんなのだろうか。人間的な一面をみせるごんである。
「いわしの安売りだあい」いせいのいい声にひかれたごん。
そこで目にしたのは、「びかびか光るいわし」であった。
うなぎをとったいたずらの時もそうであった。
ごんは、光るものに強い好奇心を持っているようである。
「かごの中から、5,6ぴきのいわしをつかみ出して」もと来たほうへかけ出した。
そして、兵十のうちの中へいわしを投げこんでしまった。
ごんは、初めから償をするためにさかなを取ったのだろうか。
そうではない。いたずらの虫がさわいだにすぎない。
逃げているときに、とっさに思いついたことではないだろうか。
「ごんは、うなぎのつぐないに、まず一ついいことをしたと思いました。」
そのように思いこもうとしたのではないか。
自分のいたずらを償いにすり替えてしまったとはいえないだろうか。
かわいいごんである。
「うら口からのぞいて」ごんは、物置の後ろからうら口まで入るようになった。兵十との距離をさらに縮めたことになる。
しかし、そこでみたのは、いわし屋にひどいめにあわされている兵十である。
「ごんは、これはしまったと思いました」
人間世界のおきてを知ったのである。
盗みはいけないということを知ったのである。
ごんは、自分の行いを素直に反省している。
そして、ごんの真心をこめた償いが始まる。
「次の日も、次の日も。ごんは、くりを拾っては兵十のうちへ持ってきてやりました」
ぬすんだものではなく、いたずらでとったものではなく、自分の力で得たものをもってくるようになった。
「くりばかりでなく松たけも」持っていくようになった。
そこには、兵十を思いやる優しさが表れている。
特に日時を表す言葉「次の日には」「次の日も、その次の日も」「その次の日には」には毎日続けて償いを実行するごんの姿がある。
健気なごんである。
すっかり人間的であり、人間世界に近づこうとしている。
哀しいほどに兵十を思い、加速度的にのめり組んでいく状況がこれらの言葉に表れ、作品の悲劇性を一層強めていることを理解する。
指導の流れ
1.本時目標
「まず、一つ、いいことをした」と「これは、しまった」という気持ちを対比させることで、ごんの償いに対する気持ちを読み取ることができる。
2.指導にあたって
特に日時を表す言葉「次の日には」「次の日も、その次の日も」「その次の日には」に着目させたい。哀しいほどに兵十を思い、加速度的にのめり組んでいく状況がこれらの言葉に表れ、作品の悲劇性を一層強めていることを理解する。
○ 「おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か」と、さらなるごんの誤解が生まれる。
2つめの誤解
○ごんの「ひとりぼっち」は、周りに友だちも支える人もいない天涯孤独の境遇てである。 (動物社会)
○ しかし、兵十は、友だちも村の人も支えてくれる共同社会の一員なのである。ここに、ごんのさらなる誤解がうまれてくることになる。
○ いわしを見て、ごんの動物的ないたずらしたい気持ちが表れる。「ぴかぴか光るいわし」ごんは、光るものがすきである。
○ 償いのために、いわしをとったのではなく、つい、いたずら心がおきたと考えられる。しかし、ごんは、「まず、一ついいことをした」と自分を納得させようとしている。
○ あとで、盗みは共同社会では許されない行為であることを知る。
○ そして、翌日から、自分の力で拾い集めたくりを届けることになる。
中心になる文
おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か
ごんは、うなぎのつぐないに、まず一つ、いいことをしたと思いました。
ごんは、これはしまったと思いました。
3.指導の流れ
めあて
「まず、一つ、いいことをした」と「これは、しまった」という気持ちをくらべて、つぐないをするごんの気持ちを読みとろう。
①課題を意識して場面を読む。
「ごんは、うなぎのつぐないに、まず一つ、いいことをしたと思いました。」とありますが、つぐないができたのでしょうか。
①つくないができた、できていないのどちらかを選んでノートに理由を書く。
②話し合いをする。(学びの広場づくり)
※つぐないができたかどうかという点に絞って考えさせる。
③ごんは、うなぎのつぐないにどんなことをしたのか、彼の行動の事実を確認する。
④いいことではないのに、ごんが「まず一つ、いいことをした」と思っているのはどうしてだろうか。(ビルを建てる)
「どんなことをしまった、こうかいしているのでしょうか」
※国語の発問の場合、なぜ、という問いかけを少なくします。なぜ、しまったのかと考えるよりも、どんなことをしまったと思ったのかと聞いたほうが具体的なものが子どもから出できます。
①ごんのしまったという気持ちをノートに書く。
②全体でだしあって話し合う。
反省できるごんのすばらしさとやさしさにも気づかせたい。
「しまったと思ってからごんはどのように変化しましたか」
①変化がわかるところに線をひく。
その後のごんを時系列で追いかける。
次の日も
その次の日も
その次の日も
何をした次の日かを考えさせる。
②発表する。(広場)
③ごんの気持ちを考える。(ビル)
「ごんへの手紙」
ここまで読み進めてきますと、子どもたちのゴンに対する気持ちは、さらに寄り添っていきます。動物社会と人間社会の違いをごんは大きく意識することになりました。