教育随想(授業づくり・集団づくり・児童理解)

実践、反省、さらに実践・・・

子供たちを相手にして、悩んだり迷ったりしている先生に読んでいただきたいと思っています。
迷うことが、悩むことが先生の良心であり、最も大切な能力ではないのでしょうか。
 わかったことよりわからないこと、できたことよりできなかったことに 心を向けていく先生は 素敵だと思います。

教育随想180回 「ごんぎつね」と私 物語文の教材研究とその指導5回

1.教材研究…兵十のおっかあの死


「ああ、そうしきだ」と、ごんは思いました。
どこで、葬式だとわかったのか。


ごんの観察力はすばらしい。
「家内がかみをすいて」・・・ふふん、村に何かあるんだな。
「秋祭りかな。たいこや笛の音がしない。お宮にのぼりが立つにはずだが」
「家の中には、おおぜいの人が集まって」外ではない家の中。
「表のかまどで火をたいて」
「大きななべの中では、何かぐずぐずにえて」
※「ぐずくず」とは、大辞林によると
 「静かに物がすれあう音を表す」
どうして、そのことがわかったのか。
ぐすぐず煮る音がわかるためには、まわりが静かでなければならない。


葬式の列
ごんの目にとまったものはどのような光景であっただろうか。
「おしろの屋根がわらが光っています」「ひがん花が赤いきれのようにさき続いています」
「カーン、カーンと、かねが鳴って」
まぶしいぐらいの陽ざしが向こうに見えるお城の根がわらにあたっている。(遠景)
近くでは、赤く燃えるようなひがん花のじゅうたんがひかれている。(近景)
その空間にしみわたるように、かねの音がひびく。
視覚的イメージ、聴覚的イメージを折り重ねて、大変悲しい葬式の場面をカラフルに描いている。
ごんが目にしたもの(視覚)
ごんが耳にしたもの(聴覚)
この2つの視点から葬列の人々の悲しみを感じ取ることができる。


やがて、みえてくる葬列。少しずつ近づいてくる。
ごんの目の中にはいってきたものはなんだろうか。
そして、それぞれの光景が、ごんにはどのように映ったのか。


「白い着物をきたそうれつの者」
ひがん花の赤との対比。
ちらちら見え始める姿。それにともなって、話し声も聞こえ始める。
「人々が通ったあとには、ひがん花がふみ折られていました」
ふみおられたひがん花に気付かない人々、その悲しみが表れている。
死を悲しむ人々の気持ちが伝わってくるようである。
姿が見える⇒話し声⇒ひがん花がふみ折られる
むざんな感じがするが、死を悼む人々の気持ちが表れている。
白いかみしもの白、さつまいもみたいな顔の赤が対比されている。


ふみ折られるくらいのひがん花のじゅうたんが象徴的である。


「ごんは、のび上がって見ました」
「のび上がって」見ようとするごんの好奇心、心惹かれるものは何か。
兵十のしおれている顔がごんの目にどひこんできた。
「死んだのは、兵十のおっかあだ」
なんとよく知っていることだろう。家族構成までも知っているではないか。
ごんは、村人をよく観察していたことになる。村近くまで、自分の生活圏を持っていたことになる。



「そのばん、ごんは、あなの中で考えました」
ここから、ごんの思い込みと誤解、そして、悲劇の始まりである。


「うなぎを食べたいと言ったにちがいない」(推測)
「うなぎを食べたいと思いながら死んだんだろう」と、勝手に結論をだしている。
あんないたずらをしなけりゃよかった。断定に近い推量。


ここに自己批判しているごんの人柄が表れている。
事実は、ごんがうなぎをとってきてしまったというだけである。
他は、すべて、ごんの推測であり、誤解にすぎない。
そして、その誤解はごんの優しさでもある。
この優しさがごんに償いの行為と悲劇をもたらすことになる。


2.場面で押さえたいこと


ごんの変革の契機をしっかりとつかませたい。
「いつもは、赤いさつまいも・・・今日はなんだかしおれていました」
「ウナギが食べたいと言ったに(ちがいない)「そのままおっかあは、死んじゃったに((ちがいない)」「ああ、そうしきだ」「兵十のうちのだれが死んだのだろう」・・・・・ひがん花・・・赤いきれのように・・・ふみ折られていました。・・・(このことがごんにどのような影響を与えたのか)・・・しおれた顔・・・そのばん、ごんは、あなの中で考えた・・自分に関係があるのでは…自分のせいではないか?・・・いたす゜らはいけないということを知りながらやっていた自分に対する後悔・・・何とか償いをすることはできないか・・・ごんは、きっとこんなに自分のしてきたいたずらの恐ろしさに気が付いたことはなかったのではないか



ごんの行動を整理すると
 弥助の家の裏(家内・・お歯黒)⇒かじや新兵衛の裏(家内・・かみすき)⇒「村に何か  あるな」⇒「秋祭りかな」⇒「たいこ、笛の音なし、お宮ののぼりなし」
⇒兵十のうち⇒おおぜいの人・よそ行きの着物・こしに手ぬぐいをさげた女たち・表のかまどで火をたいている⇒「ああ、そう式だ」
   参考・・・「ぐずぐず」-花を鳴らす音・静かに物のすれ合う音


○ごんが兵十の母の葬列を見守り続けている、ごんの目を通して、その様子や情景が描かれている。情景描写の中に、人々の悲しみが表れている。
 参考  情景と風景の意味は
          情景・・・人の心を動かす風景や場面
          風景・・・「景」はひかりのこと。目の前に広がるながめ。
         ごんは、のび上がって見ました。


指導する中心となる文
 ①「ああ、そうしきだ。」と、ごんは思いました。
 ②ごんは、のび上がってみました。
 ③ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった


文章を読み取る発問は、ある一か所の文を問題にすれば、その場面全体の文章を読まざるえないようなものが好ましいと考えます。
子どもたちの読めていない箇所を問題にすることで、子どもたちは独りで読むときとは違う新鮮な気持ちになります。
子どもたちは、独りで読み終えた個所をひつこく指導されると、せっかくの自分の読みが損なわれてしまいます。
子どもたちが一人では気づいていない部分を指導します。
もちろん、すべてではありませんが。



3.指導展開
めあて
「ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった」と、いたずらをこうかいしているごんの気持ちを考えよう。


Step1
「ああ、そうしきだ。」と、ごんは思いました。ごんはどんなことから、葬式だとわかったのだろうか。


ごんが村人の生活を良く知っているということがわかる場面である。
 さらに、ごんの観察力の鋭さもわかる。
 ※この場面は子どもたちはごんの目、耳になって文章の中から考えます。
Step2
「ごんは、のび上がって見ました。」
ごんは、そう列をどのような気持ちで見守っていたのか。
①読んでわかるところに線を引く。
②発表する。
③全体で話し合う。・・・同じ、違うところを確認する。
白い着物を着たそうれつ
兵十が、白いかみしもを付けて、いはいをさげている。
今日はなんだかしおれていました。
墓地に、ひがん花が、赤いきれのようにさき続けていました。
ひがん花がふみ折られていました。


Step3


「ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった」と、いたずらをこうかいしているごんの気持ちを考えよう。
 ①後悔しているごんの気持を想像してノートに書く。
 ②ごんの後悔する気持ちを出し合って話し合う。
  子どもたちの考え
 ごんは後悔している
・おっかあの死んだことを自分のせいだと思っている。
・かんちがいしている。
・自分の行動をきびしく反省している。
・ごんは、うなぎをとっただけなのに、あとは、自分で思いこんでいる。
・ごんは兵十の悲しみを感じている、やさしいなあ。
・「ちがいない」と、事実ではないことを想像しているだけでは。
・想像できるのはやさしさではないか。
・ここからごんの償いがはじまったのだな。
・ごんは人のことを自分のことのように考えるのだよ。
・べつに、ごんがおっかあを死なせたわけではないのだから、自分の責任にする必要がないのに。


※文末表現を意識させながら読み取らせます。


授業は広場をつくり、その上にビルを建てるものだとお話したことがありますね。
子どもたちがごんの気持をめいっぱい広げてだせるようにします。
そのためには、先生は、子どもたちの意見に簡単に頷かないことです。
無表情を装い、子どもたちの意見を聞いています。
話し合い学習を指導されている先生でしたら、子どもたちに任せてみる場面です。
子どもたちの考えが出そろってから、先生は、次のように切り込みます。


「ごんは兵十のおっかあを死なせてしまったのですか。悪いことをしたのですか。」
このように質問すると、子どもたちの話し合いは焦点化されます。


授業の技術、「拡散と焦点化」です。
まず、子どもたちの考えが拡散し、それから先生によって焦点化されます。
先生にとっては、ここが楽しい時です。


Step4
ごんへの「手紙」の時間です。
このあたりから、ごんに対して真剣に関わるようになってきます。
償いの始まりと同時に悲劇の始まりだからです。

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