教育随想(授業づくり・集団づくり・児童理解)

実践、反省、さらに実践・・・

子供たちを相手にして、悩んだり迷ったりしている先生に読んでいただきたいと思っています。
迷うことが、悩むことが先生の良心であり、最も大切な能力ではないのでしょうか。
 わかったことよりわからないこと、できたことよりできなかったことに 心を向けていく先生は 素敵だと思います。

教育随想 130回  先生はぼくの家来や 学級のボス

指導記録より 5年生男子


自分の思いどおりにしようとする。
自分が友達よりも先に聞いていないとおこる。
いわゆる学級のことをしきりたいのである。
問題集の誤答直しを要求しても「パス」と言ってしようとしない。
まわりの子も、暴力を振るわれるので、その子におびえている。
前担任もその子のいい分を聞いて宥めてきたきらいあり。
先生は、ぼくの家来やという感覚を持っている。
友だちにもそのように話しているらしい。


私は、それに対抗して
テストプリント 配布 その子のときだけ「パス」と宣言。
「なんでくれへんのや」「いやいや、この間、間違い直しを求めたら、あなたが「パス」したので、私も「パス」を使わせてもらっていると返答。
テストしたらまた、間違いなおしをしなくてはならないから つらいと思ってパスしたんだよ。


子どもは愕然とした。
子どもの主張を逆手にとるからだ。
この子も学習が苦手で 自分ができないことをしめしたくないから学習に真剣に取り組まない。
やればできるよと口癖にしている子どもは、やってもできない。
やればできるという場所から出ようとしない。 
やったらできないことを知っているから。
自分が傷つくことを恐れている。


腹がたったらすぐにゴミ箱をける。
私の対抗措置。
ごみ箱を彼のそばにおいてやる。(いつでもけることができるように)
彼にとっては意外である。
私に注意されるのではなく、けることを容認したからである。


彼のまちがいなおしを一番に支える。 
全体のなかで恥をかかせないことである。
やがて、彼は私に向かって心を少し開く。
「先生 気を使わせてるなあ おれなあ ほんとうはあほやねん。」
子どもが自分の心を開いてみせる時である。
「つらかっなあ でも あんたにはパワ-がある そのパワーが好きやなあ」
「おれなあ 走りは誰にも負けへんね 」
「えっ その短い足で」    
               (指導記録より)


                  
前学年で彼の家来だった友達が離れていきます。
彼の周囲にはご機嫌をうかがうような子どもがいなくなります。
学習に対する劣等感を、自分を突っ張らせることで隠してきました。


5月の初め、その子の父親が校長室にやってきました。
かなり子どものことで憤慨していました。
呼ばれた私に向かって、声を荒げて言いました。
「どうなってるんや。うちの子に元気がない。学校に行くのがつらいと言っている。」
予想通りの発言でした。


少年野球のコーチをしているだけあってパワーがあふれていました。
私は「お父さん、子どもさんの学校の生活をご存知でしたか。一度、学級に参観に来てください。」
「友達がいなくなった原因があるのです。」と、友達関係を詳しく話しました。
お父さんは、
「そんなこと、今までの先生、ちっとも教えてくれなかったで」
「だから、今、私がお伝えしました。」と私は答えました。


お父さんの気持ちが落ち着いたころ、父親に言いました。
「私に任せてもらえませんか。彼のパワーは、学級の中で一番です。そのパワーの使い方を彼は知りません。6月の終わりごろぐらいまでに、彼の指導を任せていただけませんか。もし、その時までに変化がなかったら、再度、お越しください」


やがて、6月の終わりになると、彼の元気さが、いろいろな面で友達の役にたつようになりました。子どもの特性を集団の中で生きてはたらくように指導します。
その最初のことは、いうまでもなく彼の好きな体育でした。


リレーの学級対抗がありました。
その時に、彼にすべてを任せることにしました。
友だちの走りの順番から練習方法、そのあとの反省会を任せました。



夏休みに入ったある日、校長に呼ばれました。
「先生、あの父親が校庭の草刈りをしておられるよ。申し訳なかったので・・・」
父親にわかってもらえてうれしかったものです。
父子ともに、常に、行動で示す心意気が素敵でした。
その後、彼は学級のリーダーとなりました。

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