教育随想 640回 国語「3年とうげ」一人の人間として、作品を味わう
◎登場人物の気持ちの変化について、場面の移り変わりと結び付けて具体的に
想像することができる。
〇様子や行動、気持ちや性格を表す語句の量を増やし、話や文章のなかで使えるようにする。
〇登場人物の行動や気持ちについて、叙述をもとに捉えることができる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・指導書より
★「具体的に想像する」とはどうすることなのか。
日常生活のなかで使う言葉で表現する
感嘆詞を交えて表現する。
★様子・行動・気持ちを表す言葉を広げることが大切である。
「使えるようにするために、短文づくりを実施する。
★「叙述をもとにとらえる」
ややもすると、子どもたちの発言は言葉や文章から離れてしまうことが多い。
その場合、「どの言葉、文章からわかった?考えたの?」という助言をする。
必ず言葉を根拠にして発言ができるようにする。
2.教材の研究
「三年とうげ」は、朝鮮半島に伝わる民話である。民話独特の語り口には楽しいリズムがあり、朝鮮半島の農村の雰囲気を存分に表現した挿絵もあることで想像を膨らませながら読み進めることができる。
ちょっとした機転で不幸を幸せに転じたとんち話の側面もあり、昔の人々のおおらかな心情が伝わってくる作品である。
また、「三年とうげ」は、物語の四つの組立てがはっきりしている。
①「三年とうげ」の紹介と言い伝え(場の設定)
②おじいさんが三年とうげで転んでしまう(事件の発生)
③トルトリが、おじいさんに峠で何度も転ぶことを提案する(解決へのきっかけ)
④おじいさんが三年とうげで何度も転び、元気になる(事件の解決・むすび)
という組立てをしっかり押さえたい。
さらに、事件の発生や事件が解決していく過程での登場人物の気持ちの変化が描かれている。トルトリの機知に富んだ一言が、言い伝えを信じて弱気になっていたおじいさんに力を与えていく様子の面白さを子どもたちに捉えさせたい。
大切なのは、ここから自分なりの教材解釈、研究が必要です。
むずかしいことではなく、それぞれの先生が作品を読みながら楽しめばいいです。
先生が一人の人間として、作品を味わいます。
人生経験、年齢に応じて、味わうことが地に着いた教材研究です。
1場面
あまり高くない「三年とうげ」。
とうげの名前は本当の名前ではない。三年に大きな意味がある。
三年とうげの情景は一つの言葉で代表される。
「ため息の出るほど、よいながめでした」が、情景を想像するキーワードになる。
そのながめは「さきみだれる」という言葉で表している。
ため息がでるほど・・・さきみだれる よいながめ の言葉から想像させる。
この美しさとは逆に、こわい昔からの言い伝えがでてくる。
言い伝えは、人々の口から口へとつたえられてきたものである。
人々がその言い伝えをどのように受け取っているかは次の言葉でわかる。
「みんな、転ばないように、おそるおそる歩きました」の言葉の中に人々の気持が表れている。
1場面は、ため息がでるほど美しい「3年とうげ」に伝えられている恐ろしい言い伝えから話が始まる。
2場面
一人のおじいさんが三年とうげに「さしかかる」(ちょうどその所を通りかかる)ところで、ひと息入れて、美しいながめにうっとりしていた。
そのため、多くの時間を過ごしてしまったのだろう。
山は、日ぐれが早い。
あわてて立ち上がり、足を急がせた。
急いで歩いたのではなく、「足を急がせた」という文に着目する。
年寄りが無理をして、体に言い聞かせながら歩いている様子がわかる。
体が足の動きについていかないのである。
あわてていたので、おじいさんは、石につまずいて転んでしまった。
「おじいさんは、真っ青になり、がたがたふるえました」
「ぶるぶる」ではなく、「がたがた」ふるえている。゛
ここに、言い伝えを信じているおし゛いさんの姿が表れている。
「家にすっとんで」「おばあさんにしがみつき」「おいおいなきました」
「ごはんもたべずに」「ふとんにもぐりこむ」「とうとう病気に」
おじいさんが急に元気がなくなっていく様子がわかる。
このあたりの様子はおじいさんの様子を具体的に想像しやすい。
「村の人たちもみんな心配しました」とあるように、地域社会は、みんなで支えあっていく社会である。
おじいさんの不安が高まっていく様子を読みとる。
3場面
ふとんにもぐりこみ、とうとう病気。
おじいさんの病気はどんどん重くなるばかり。
むらの人たちもみんな心配。
そこでトルトリの登場。
「おいらの言うとおりにすれば、おじいさんの病気はきっとなおるよ」
このトルトリの言葉にふとんから顔をだすおじいさん。
ところが「三年とうげで、もう一度転ぶんだよ」という提案に、おじいさんは「ばかな」と怒る。
これはひどい提案である。
転んで苦しんでいるおじいさんに、「また、転びなさい」と。
おじいさんは、すぐにトルトリの言葉を信じたわけではない。
このおじいさんの心理的変化がおもしろい。
トルトリの話を聞いて、「怒り」から始まって、最後は「なっとく」していく。
変わり方のなかに、おじいさんの愛らしさを感じる。
トルトリの話を納得していくまでのおじいさんの気持ちの変化を読み取る。
①ばかな (怒り)
②しばらく考えていたが うなずきました
③うん、なるほど、なるほど・・・何を納得しているのか。
この3つのおじいさんの気持ちの変わり方を追っていく。
4場面
ふとんからはねおきる
わざとひっくり返り
まだ、トルトリの提案を試みていないのに、ふとんのなかで意欲満々のおじいさん。
おもしろい歌
すっかりうれしくなりました
あんまりうれしくなったので
とうげからふもとまで・・・ころころころりんと 転がり落ちてしまいました。
長生きができるわい
すっかり元気になって 長生きした。
おじいさんに関係のある言葉を拾ってみると上のようになる。
おじいさんの気持ちを想像して楽しめるようにする。
ピンチをひっくり返した発想の見事さ。
一休さんのとんち話を思いだす。
教材解釈は、人それぞれです。(筆者の意図、作品論はあります)
無理して、自分なりの解釈を捨てて指導書に身をゆだねることをやめましょう。
作品、作者の意図から考えることも大切です。
しかし、まずは、先生自身が自信をもって研究しましょう。
解釈の違い、深さは授業に臨むと、子どもたちが教えてくれます。
そこから、さらに、研究が始まります。
まずは、先生が持っておられる根を先生の土のなかで伸ばします。
その根を伸ばすことで、他の考えや解釈を自分に引き寄せて考えることができます。