教育随想(授業づくり・集団づくり・児童理解)

実践、反省、さらに実践・・・

子供たちを相手にして、悩んだり迷ったりしている先生に読んでいただきたいと思っています。
迷うことが、悩むことが先生の良心であり、最も大切な能力ではないのでしょうか。
 わかったことよりわからないこと、できたことよりできなかったことに 心を向けていく先生は 素敵だと思います。

教育随想 370回  先生、ぼく、宿題をしないからねと 宣言する子

学習意欲が乏しい子ども、どの学級にもいます。
4月に新しい学級をもったとき、歓迎されない子どもたちがいます。
一つは、問題行動をとる子どもです。
二つ目は、学習意欲がほとんどない子どもです。
先生のつぶやきとして
「今年は、難しい子どもがいるので大変だ」
「えっ、あの子が私のクラスに入っている。」
表向きの声は別として、本音としての声がでています。


医者が毎日、生涯をとおして、風邪の患者ばかりを診察したとします。
果たして、その医者の医療技術は向上するでしょうか。
先生も同じです。
今年は、今まで担任したことのない子どもを歓迎します」
そうはいっても、毎日、悩まされることになるので大変です。
できれば避けたいと思うことがあっても仕方がないでしょう。


私は、新しい学級を担任するときに校長にお願いしてきました。
「校長先生、できるだけ指導困難な子どもを担任させてください。」
決してかっこつけて言っているわけではありません。
私は、少しでも出会ったことがない子どもを指導したいと思いました。
その結果、今までの担任が指導効果を発揮できなかった子どもたちを、毎年担任することができました。


5年生を担任したときのことです。
3年生からほとんど勉強しない、宿題もしない子ども
その男の子が始業式の時、私のもとに近づいてきました。
そして、言いました。
「先生、ぼく、勉強嫌いだから、宿題はしないよ。」
私は正直驚きました。
堂々と勉強しない宣言をしたからです。


彼は(その男の子)授業中、どの教科にも関心を示しませんでした。
ぼんやりと窓の外を見ていることが多かったです。
私は、あえて、彼を窓際の席に移動しました。
彼の関心のあることを大切にしたいからです。
彼は宿題をしませんでした。


2週間ぐらいたった日、彼は、私に言いました。
「先生、宿題しないのでプリントをわたさなくていいです」
私は。そのことをお母さんにも伝えておくように言いました。
保護者の反応をみましたが、ほとんど彼に対してはあきらめているようでした。


勉強が苦手な子は、勉強することで自分の弱さをさらけ出してしまいます。
苦痛から回避しようとします。
だから、勉強なんかに関わらないほうがいいのです。


さて、勉強が苦手な子を意欲的にする入り口はどこでしょうか。
私と彼との間の接点はありません。
よく、苦手な科目を指導される方もいますが、逆効果です。
できたら、彼の得意な科目、図工とか音楽、習字などから始めることもありますが、彼の場合は、一切の勉強を私との間に入れないことでした。


彼に言いました。
「万が一、勉強をしたくなったらやればいいよ。一年間、何もしなくても それはあなたの生き方だね。」
彼との勉強以外の接点を探しました。


彼は私が栽培しているのをそばて見るようになりました。
ただ、じっと見ているだけでした。
決して「してみるかい」と誘ってはいけません。
彼は強制されることを極度にいやがるようです。


ほとんど毎日、私が栽培の仕事をしている横に座っていました。
興味深く見ているうちに、花の苗について質問するようになりました。
やがて、私がいないときでも、プランターや花壇を眺めるようになっていました。
すでに、一ヶ月が過ぎていました。



やがて、彼は、花の苗の移植、水やり、選定、土づくり等の仕方を注意深く観察するようになりました。
ある日、彼は水やりをしてもいいかと尋ねました。
私は「水やりは難しいんだよ。相手の様子をしっかりと見ないといけないから。一つ一つ苗の状態によって、水の量やかけ方が違うのだよ」
彼は、私のいるところで、水やりをするようになりました。


彼は、腰を屈めてジョロで水やりをしています。
できるだけ植物に近づいて、その様子を観察しながら水やりをしています。
これはおもしろい、彼の能力の一端を垣間見ました。


そうしているうちに、
「先生、移植してもいいかな」と言い始めました。
私は「あなたのしたいようにしたらいいよ」
子どもは「でも、失敗するかもしれないよ」
私は「失敗はやってみると必ずあるものだから、心配ないよ」
こうして、彼は、自分だけの世界から少しずつ体を外界に伸ばし始めました。


勉強以外のことで子どもとつながりを持つことができると、やがて、彼は、勉強にも関心を示し始めました。(多くの子どもに言えます)
算数が苦手な子どもに算数でつながらないほうがいいです。
彼の得意な科目で優先的に関わります。
そこで学習意欲が芽生えると、やがて、不得意なことに心が向きはじめます。

×

非ログインユーザーとして返信する