教育随想1088回 1年国語教材「たぬきの糸車」指導研究 第3回
段落ごとに見てみよう。
4段落
しょうじの穴から二つの目玉、あかるい障子には、たぬきのかげが映っている。
幻想的であったり、牧歌的であったり、あるいは、少し怪奇的な感じがしないわけではない。
「二つの目玉」「月の明るいしょうじ」がキーワードである。
障子に映るたぬきの体のシルエットと穴から出ている目玉の動きが奇妙なコントラストを出している。
糸車の音に合わせているかのような目玉の動きの面白さ。
正体まるわかりであるという滑稽さ。
5段落
5段落には、この物語の柱になる理念がある。
「おかみさんは おもわず ふきだしそうになりましたが、だまって糸車をまわしていました。」
「おもわず」とは思っていないのか、思っているのか。
おかみさんは、ふき出しそうになったことは思いがけないことである。
おかみさんたちにとって、罠までしかけて捕まえたいたぬきにもかかわらず、何も行動をおこさなかった理由がここにある。
「おもわず」が大切な言葉になる。
おかみさんが「おもわずふきだしそうになった」わけを考えてみると
①二つの目玉、不気味というよりはかわいい目に思えたから。
②二つの目玉が糸車の回転を追いかけるようにして「くるりくるり」と回っているおかしさ、素直さ、純真さ、そして、かわいらしさ。
③糸車をまわすまねをする影絵のおかしさ
④自分の正体が障子に映っていることを知らずにまねをするたぬき
おかみさんたちにとっては、たぬきは、生活を脅かすものとして憎らしく思っているはずなのに、障子に映ったたぬきの姿は全く正反対の印象を受けたことになる。
でも、どうして、おかみさんは「ふきだす」ことをこらえたのだろうか。
もし、吹き出してしまったらたぬきがびっくりして逃げたであろう。
そうしなかったおかみさんには、包み込むような優しさが表れている。
糸車に対する好奇心や夢中になってまねをして楽しんでいるたぬき の無邪気さ、健気さを認めて受け入れたのではないか。
おかみさんも楽しんでいる。
そこで、おかみさんは、気づかないふりをしてあげたのである。
いたずらたぬきのイメージが変わりつつある。
6段落
おかみさんが気づかないふりをし続けることで、案の定、たぬきは毎晩やってきて、糸車を回すまねをする。
たぬきにとって、楽しい毎夜であったであろう。
ただ、ここで、注意しなければならないのは、たぬきは、糸車をまわすまねであって、つむいだ糸をたばねるまねはしていないということである。
「かわいいけど、いたずらもんだな」という気持ちが「いたずらもんだがかわいいな」に変化してきている。
おかみさんは、たぬきが訪れることを楽しみにするようになっている。もちろん、たぬきも楽しみにして一軒家を訪れるようになった。
このように障子の穴を通して、おかみさんとたぬきの交流が始まる。
5段落は、この物語の核になっている。
たぬきの無邪気な様子とそれを温かく受け入れるおかみさんとの交流。
そのたぬきもわなにかかる日がやってきた。 続く