教育随想(授業づくり・集団づくり・児童理解)

実践、反省、さらに実践・・・

子供たちを相手にして、悩んだり迷ったりしている先生に読んでいただきたいと思っています。
迷うことが、悩むことが先生の良心であり、最も大切な能力ではないのでしょうか。
 わかったことよりわからないこと、できたことよりできなかったことに 心を向けていく先生は 素敵だと思います。

教育随想 216回  学びは 学び手がわかることではなく 迷い揺れ動くこと

先日  勉強会での話です。
ある先生が研究授業をされました。
算数の授業です。
時間が足りずに10分以上、授業が延長されたということでした。
私は気になったので、そのあとの職員の反省会でどのような内容の反省がでたかを尋ねました。


自力解決に時間がかかりすぎて時間がたりなかった。
深い学びあいができていない。
子どもに対して、要求する答えを待ちすぎている。
子どもの表情に盛り上がりがない。
できない子どもを途中で切っても最後でわかればいいのではないか。


上のような話し合いが中心になったということでした。
この話を聞いて、何のための研修だろうと思いました。
まず、この研修の授業のねらいは何であったかということです。
「主体的な学び 対話的な学び 深い学び」というのが、職員研修のねらいだそうです。
「学び」とは、子どもの認識過程を問うことです。
子どもたちの「問い方」と「わかり方」をさぐることです。
しかし、話し合いでは、指導者の視点でしか話は進められていません。
しかも、時間がなったとか、期待する答えがでなかったとかいうものでした。
そこには、子どもたちを先生の指導案に近づけさせようという意識が強くはたらいています。


授業の中には、自ずから学校目標が含まれていなければならないと思います。
教室を見れば、その中にもいたるところに学校目標で目指すものが具体化されていなければなりません。
まして、研修の目標の具体化、「学び」についてどう考えるのかということを全体で考える必要があります。


自力解決で時間がかかった理由が、授業者によると「すべての子どもがわかっていなかったから」ということでした。
おかしいですね。最初の自力解決の過程ですべての子どもがわかってしまったなら、あとの集団の学び(対話的学び)は必要ないことになります。


自力解決は、あくまで、独りで悩み、どのように解決したらよいか「さぐる」ことです。
迷うことです。時には、わかったつもりがわからなくなり揺れ動くことです。
わかることではなく、わからないことが何かを具体的にわかることです。
それを友達に表現できることです。


わからないことを持ち寄って、班や全体で「ねりあう」ことで解決に向かいます。
したがって、独り学びは「わかる」ことではなく「わからない」壁を明確に認識することです。それが主体的な学びです。
「わからない壁」が子供たちの学習目標になります。


授業はわからないところを埋めるのではなく、わからないことを掘り返すことです。
「ああ、これがわからなかったのだ」
「ここまではわかるけど、ここから先がわからないや」
「わかったつもりでいたが、もう一度考え直してみるとぼやけてきたぞ」
わかった子どもには
「どんなことがわかったのか」
「わからない友達はどこでつまずくのか」
「わからない友達に説明するにはどうしたらいいか」
などを考えさせます。


対話的学びとはかっこいい言葉ですが、対話するお互いの子どもがしっかりと自分の考えを持っている場合の話です。
逆もあります。対話を通して自分の問いを明確にすることでもあります。


実際の授業では、班学習でできない子を傍で待っている友達の姿が目についたそうです。班学習でもわからない子どもこそ、先生の指導の手、集団学習としての関わりが必要なはずです。


対話的学びとは、子どもたちがお互いのわかり方、わからなさをさぐることです。
さらに、お互いの共通点、差異点を理解しあうことです。
「あなたも一緒の考えだね」
「ここがあなたの考えとは違うよ」


学びは内面的なものです。
わかることとわからないこととの葛藤です。
いや、わかるとわからないの間のグレーゾーンの世界にとどまることです。
わかったことをさらに疑い吟味することです。
わからないところは、どこまでならわかっているのかを探りだすことです。
わかりたいと思う気持ちが強くなければ授業は平板なものになります。
実際に、その研究授業は静かに流れていたそうです。


学びは、子どもが 迷い 揺れ動く ことです。
学びは、分かりたいという気持ちを持たずにはおれないことです。
学びは、「わからなさ」の力いっぱいの表出です。
「わかる」は学問の世界の収束であり、「わからなさ」は拡散です。
授業は、わからなさが拡散すると子どもたちの意欲が大きくなります。

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