教育随想(授業づくり・集団づくり・児童理解)

実践、反省、さらに実践・・・

子供たちを相手にして、悩んだり迷ったりしている先生に読んでいただきたいと思っています。
迷うことが、悩むことが先生の良心であり、最も大切な能力ではないのでしょうか。
 わかったことよりわからないこと、できたことよりできなかったことに 心を向けていく先生は 素敵だと思います。

教育随想 750回 3年国語「まいごのかぎ」  ファンタジーの世界(その二)

前回に続いて


第三場面  緑のベンチのかぎあな


緑色のベンチの手すりに小さな穴
「そんなはずないよ」
通りすぎようとしたが、ふと立ち止まってしまいました。
「でも、もしかしてー」と思いながらかぎあなにかぎをさす りいこ。
どこまでも自分の気持ちが欲するところに動いていく りいこ。


「わあ」ひっくり返りそうになるりいこ。
のそのそと歩きだす。
日だまりにねそべる
ねいきを立てるベンチ。


「ベンチのかぎでもないよ。歩くなんておかしいもの。」
ため息を一つついて公園をあとにしました。
ここでも、りいこはベンチがどうなったら、ベンチのかぎだと判断するのだろうか。



第四場面 あじのひものの かぎあな


「お魚にかぎあな なんて。」
へんだと思いながらも例のごとく強い好奇心をもって行動する りいこ。
ただのあなではなさそうだ。
カチャッ。
小さなかもめみたいにはばたき始める あじの開き。


あっけにとられる
全くりいこの予想外の出来事である。
ふわふわとうかびあがるあじの開き
様子を想像しただけでも楽しくなる。


あわててとびつきかぎを引き抜く
「あぶない。海に帰っちゃうところだった。」
海に帰ると考えたりいこの楽しい想像である。
ところが
「やっぱりよけいなことばかりしてしまう」と悲しくなった りいこ。
自分の好奇心から出た行動がとんでもないことになるところだったと反省する りいこ。
ベンチやさくらの木の場合とは違う。


第五場面 バスの時刻表のかぎあな


「バ」の点が三つあり、その一つがかぎあなに見える。
「どうしょう」と迷う りいこ。
よけいなことはやめようとお魚の時に思ったばかりである。


「これでさいごだからね」といいわけをする りいこ。
せのびしてかぎあなにかぎをさしこむ。
いつも自分の想像する世界を広げようとする りいこ。
今までの自分の失敗に引きずられない りいこの勇気。


ところが何も起こらない。
よかった、よけいなことをしなくてよかったとほっとするりいこ。
でも、何もおこらないなんてつまらない、期待したのにとがっかりする りいこ。
ここにりいこの人間的な葛藤が見られる。
何かがおきると期待して、さしたかぎが今までのような反応がなかったことが期待外れ。


時刻表のバスの時刻を表した数字に変化が表れる。
「あっ」・・・ありのように動く数字
「すごい」・・・とんでもない到着時間になる。
好奇心で目を輝かせたとたん、またよけいなことをしてわくわくした自分がいやになる。好奇心に従って行動したあとの後悔。
「あれ。どうして。」・・・時こく表の数字は元にもどらなかった。


時刻表の数字のあまりにも大きな変化に戸惑う りいこ。
りいこはこわくなってにげるようにかけだしました。
国道にでると
バスが十何台も、おだんごみたいにぎゅうぎゅうになってやって来る。


私のせいだと後悔する りいこ。
「立ちすくんでしまいました。」


「きみょうなことは、さらにおこりました。」
クラクションをがっそうするように鳴らす
リズムに合わせて、向きや順番を変えてダンスをする車。
その様子を目の前にして、後悔した気もちはどこかに行ってしまった。
「なんだか楽しそう」
「はっと気づいたのです。」


「みんなもすきに走ってみたかったんだね。」
さくらの木はどんぐりを実らせて遊びたかった。
ペンチは、公園の真ん中でも転びたかった。
あじのひものは青い空をとびたかった。
バスは、好きに走ってみたかった。
りいこは、どのように思ったのだろうか。
よけいなことを後悔したのではなく、喜びに変わっていったのではないだろうか。


消したはずのうさぎが、うれしそうにこちらに手をふっている。
りいこもうれしくなって、手を大きくふり返した。。
いつまでも、その手をふりつづけていた。


りいこの現実の世界をファンタジーの世界に変える好奇心の素敵さ。
自分の想像力を広げていく りいこの豊かさ。
かぎあなにまいごのかぎを差し込む勇気がなかったら、気づくことはなかっただろうりいこのよけいなこと。
よけいなこととは 「好奇心」である。


桜の木、ベンチ、あじのひもの、そして、バスも自分のしたいように動いた世界。
それは、まいごのかぎが りいこの手に渡ったときに実現した


さわやかな楽しさ、ぷっと笑ってしまうような楽しさ、わくわくする楽しさ。
想像力を広げていくことで楽しい世界も広がる。


りいこの好奇心に付き添ってファンタジーの世界に導かれる楽しさ。

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